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Ideas

Something Big Is Happening

22/2/2026

 
先週から10年生のMedia Artsのクラスは3、4人のグループでMusic Videoの制作に取り組んでいます。曲を選び、歌詞を分析し、Storyboardを丁寧に組み立てるなどの準備に4コマ(1週間)使いました。クラスのWebページにはAI toolsのリストがあげられていて、担当の先生からは必要に応じて活用するように指示が出ました。子どもたちの反応はと言うと、SOUNDDRAW、Suno、IIElevenLabs、Stable Diffusion、Runway、Design Playground などリストにあるものを早速試すグループもあれば、使いたくないときっぱりと拒絶するグループもありました。


あるAI startupの創業者が2月9日に配信したblog “Something Big Is Happening” が1週間で8000万回以上読まれました。この中で筆者はAIの急速な進歩、特にプログラミング分野における進展がまもなく全産業に影響を与えると予測しています。筆者はさらに、AIが既に自身の技術的業務を代替し、最小限の人為的介入で完全に機能するアプリを生成している実態から、現在のAIの能力が一般の認識を大きく上回っていることを強調し、差し迫った変化に備えるよう読者に促しています。

教育に関しては次のように述べています。


"Rethink what you're telling your kids. The standard playbook: get good grades, go to a good college, land a stable professional job. It points directly at the roles that are most exposed. I'm not saying education doesn't matter. But the thing that will matter most for the next generation is learning how to work with these tools, and pursuing things they're genuinely passionate about. Nobody knows exactly what the job market looks like in ten years. But the people most likely to thrive are the ones who are deeply curious, adaptable, and effective at using AI to do things they actually care about. Teach your kids to be builders and learners, not to optimise for a career path that might not exist by the time they graduate.”Matt Shumer (2026)

「しかし次世代にとって最も重要なのは、これらのツールの活用方法を学び、心から情熱を注げる分野を追求することです。10年後の雇用市場がどうなっているかは誰にもわかりません。けれども成功する可能性が最も高いのは、深い好奇心と適応力を持ち、AIを駆使して本当に大切に思うことに取り組める人材なのです。」


質問です。
① ICT機器が学校に導入され、やがてひとり1台の環境に発展した過程と比較すると、AIの教育現場への出現は根本的に何が異なるでしょうか。
② AIの活用の仕方についてPassive Culture (受動的文化・習慣)とPurpose Culture (目的に基づく文化・価値観)と言う分類があります。この種の議論に触れるのは初めてではないと感じるのはなぜでしょうか。


多くの学校では操作スキルやセキュリティー、情報モラルなどを含むDigital LiteracyやDigital Citizenshipと呼ばれる系統的で継続的なプログラムと指導の確立を目指している途中で、AIという強力な威嚇にも改革の可能性にもなる「黒船」が入港し、乗組員が下船して学校コミュニティーに静かに浸透し始めているというのが現状でしょう。学習評価の基準 Assessment Policyの改訂も必要になってきます。

何かに追われてする作業ほど、危ういものはないでしょう。" 'Go slow to go fast.’Build a few successes, then take another tiny step.” Michael Fullan (2023) 


「 '急がば回れ'。小さな成功を積み重ね、それからまた一歩踏み出そう。」が得策かもしれません。

Mental Health First Aid

8/2/2026

 
​先日ある場でMental Health First Aidのコースが紹介されたとき、自分はその領域についてほとんど無知であったばかりでなく、First Aidという認識もその必要性さえも理解していなかったことに気がつきました。これまで救急法救急員や水上救助員の講習は日本でもオーストラリアでも取得し更新してきました。これらは日常生活での事故防止や手当の基本、水に関係する事故防止や水の事故に遭った際の救助や手当の方法などの知識と技術を習得することを第一義に構成されています。さらに、オーストラリアの学校では、日本の学校とは異なり養護教諭や看護師が学校に配属されていないため、多くの教職員、中でも体育科教員やスポーツのコーチは受講することが義務付けられています。

先週末に2日間のMental Health First Aidコースに参加してみました。

質問です。
① 国の公的機関であるNational Mental Health Commissionの2020年から24年までの調査では、オーストラリアの16歳から24歳の若者のうち38.8%が1年以内に何らかの精神疾患があったと回答しました。2007年の調査では25.8%でした。一方、2025年のWorld Happiness Reportに公表されているGallup World Poll (2022-2024)によると、オーストラリアは11番目に幸福度が高いという結果が出ています(日本は55番目)。この相反するデータは何を示唆しているのでしょうか。
② 同じ調査で16歳から24歳の女性の場合には、45.5%が1年以内に何らかの精神疾患があったと回答しました。2007年の調査では28.5%でした。この傾向は日本にもあらわれています。どのような要因が考えれれるでしょうか。


私たちが体調不良やけがの際に医療機関で診察を受けるのと同じように、メンタルヘルスの不調がある時にも専門的な処置や周囲の人によるサポートが必要であることが講師から何回も繰り返し伝えられました。不安症やストレスなどの場合には「認知行動療法」Cognitive Behavioral Therapy (CBT)が薬物療法と同等に有効であることも知りました。CBTは行動や思考パターンを意識的に変えて、Well-beingや幸福感をあげることに有効であることを以前学んだことがあり、個人的に実践していました。 

"We need to really focus on ways that we can fight the negative feelings that come with social comparison, perfectionism and guilt. All this stuff that in some sense causes us to get so busy. We develop this sort of scarcity mindset, which winds up making us do too much and messes with our head.”

"You know, especially given that our world is changing, which success and fulfilment is increasingly feeling out of reach, that can intensify this culture of comparison. And that gets worse when we're watching influencers online and all these online trends. They set these unrealistic expectations around what a normal or a normal milestone might be, what parenting strategies should be, achievements and all this stuff. And this is causing parents to kind of push, push, push. And when we start chasing these unreasonable expectations, many families are left feeling exhausted, burned out and perpetually behind. " Laurie Santos (2025) The Science of Well-being for Parents  

「親が理不尽な期待を追いかけ始めると、多くの家族は疲れ果て、燃え尽き、いつまでも遅れを取っていると感じるようになるのです。」


さて、このMental Health First Aidコースには受講者が23人いました。出生地はAustralia, Croatia, Finland, India, Ireland, Italy, Japan, Philippines, UK など、オーストラリアならではの典型的な構成でした。幸福度を上げるひとつの要因です。

Feedbackについて

1/2/2026

 
私たちの日常生活の中にはたくさんのフィードバックにあふれています。電灯のスイッチを入れた時の「カチッ」という音、スマホのアプリを長押しした時の微かな振動など、それらの物理的フィードバックで自分の操作が確実に実行されたことを確認することができます。これらは製品のユーザーインターフェイス(UI)の設計の中で意図的に組み込まれます。
"Feedback that works surrounds us every day, so we rarely think about it. It's feedback that defines how a product behaves in response to what you want. It's feedback that allows designers to communicate to their users in a language without words. Feedback is the keystone of the user-friendly world." 

"Feedback is what allows information to become action—and not just at the level of data, neurons, and nerves.” Cliff Kuang with Robert Fabricant (2019) User Friendly

「フィードバックこそが、情報を行動へと変えるものです。それはデータやニューロン、神経のレベルだけにとどまりません。 」


質問です。
① 日常的に使う道具や製品が使用中に何らかのフィードバックを出さなかった場合、私たちはどんなことを感じどんな行動に移るでしょうか。使用する人に対してまったくフィードバックを出さない道具や製品があるでしょうか。人とのコミュニケーションの際にフィードバックがなかった場合に、私たちはどのような反応をするでしょうか。
② 私たちは学習する子どもたちにどのような内容のフィードバックをどのくらいの頻度で届けているでしょうか。学習活動をある種のシステムととらえて、子どもたちのUIやUX (ユーザーエクスペリエンス)の指標を測定すると、どのような数値が出るでしょうか。


学校の多様な場面で教師と子どもたちの間でさまざまな言葉かけや対話が発生します。特に学習活動の過程では言葉を媒体としたやりとりは重要な意味があり、私たち教師には有効なフィードバックを適時に届ける実践が期待されています。有効なフィードバックとはどのようなものか、Stanford, Yale, Columbia Universityなどの心理学研究者による共同研究があります。

"They had middle-school teachers assign an essay-writing assignment to their students, after which students were given different types of teacher feedback. To their surprise, researchers discovered that there was one particular type of teacher feedback that improved student effort and performance so much that they deemed it "magical." Students who received this feedback chose to revise their paper far more often that students who did not (a 40 percent increase among white students; 320 percent boost among black students) and improved their performance significantly. What was the magical feedback? Just one phrase: I'm giving you these comments because I have very high expectations and I know that you can reach them. That's it. Just 19 words. But they're powerful because they are not really feedback. They're a signal that creates something more powerful: a sense of belonging and connection." Daniel Coyle (2009) The Talent Code  


魔法のようなフィードバックとは何だったのか?それはたった一文でした「私があなたにこのコメントを届けているのは、あなたにとても高い期待を持っているからで、あなたが良い成果を達成できることを私は知っているからです。」

ある単元を学習していく過程で、形成的評価を継続しながら子どもたち一人ひとりの理解や習熟度のデータを分析し、それを元に作成したフィードバックを届けることができたら、どんな効果が期待できるでしょうか。この一連の作業が簡易化され、的確なフィードバックを容易に子どもたちに送る方法があったら活用してみますか。

Google Workspaceを採用されていて、生徒さん方がGmail accountをお持ちの学校向けのAI搭載の形成的評価分析シートを作成しました。無料のGoogle AIを使用していますのでフィードバックの生成に時間がかかったりすることがありますが、確実に有効なフィードバックを子どもたちに届けることができます。ご希望の方はメールでお知らせください。

Gardnerのblogから

25/1/2026

 
Howard Gardnerは70年代にBostonにある『こども博物館』に惚れ込んでしまったそうです。そこには見学の順路も見るべき展示のような指示もなく、子どもたちが自分の興味や関心のままに自由に行動し時間を過ごしていることに感動したのだそうです。昨年末のblogにはその思い出話から始まり、学校教育とAIの関係について論点が広がりました。
​
"As a dividend, the educational approach that I'm describing fits well with the major educational implications of MI theory—the theory of multiple intelligences that I developed over forty years ago. I have always resisted the urge to dictate particular curricula. Instead, I have said that “MI theory” has two major educational or pedagogical implications: 
Personalisation/individualisation: Find out as much as one can about the individual learner and present lessons and materials in ways that are optimal for that learner. 
Pluralisation: Decide what's important, fundamental, in a particular area of learning, and present such materials in more than one way, ideally in several ways. Not only do you reach many more students, more effectively; but you also reveal that a teacher, a parent, even a guide who can present a lesson in only one way has a suboptimal grasp of that material. 
In summary…
For me, children's museums were love at first sight. On the other hand, when I first learned about AI/AGI, I found it somewhat threatening…might it become a tyrannical “Big Brother”?  
Now, however, I think that a wedding, a melding of the power of artificial intelligence to the educational magic of children's museums could be a win-win—for all of us…and well into the future. One starts with a young person's interests and provides meaningful links to the strands of knowledge that are valuable and valid as we move into the middle of the 21st century. Here's to AI Educators!” Howard Gardner (2025) Children's Museums: A Valuable Model for Education in the Era Of AI

「私にとって、子ども博物館は一目惚れでした。一方、AI/汎用人工知能(AGI)を初めて知った時は、どこか脅威に感じました…暴君的な「ビッグブラザー」になるのでは?しかし今、AIの力と子ども博物館の教育的魔法が融合する「結婚」こそが、私たち全員にとって…そして遠い未来に至るまで、ウィンウィンの関係をもたらすと考えています。若者の興味を起点とし、21世紀の中間点に入るこの時期に価値ある知識の糸を意味ある形で繋いでいきます。AI教育者たちに乾杯! 」

質問です。
① Gardnerの多重知性理論の主張のひとつである「個別化」について、一人ひとりに最適な方法で学習活動や教材を提示することは可能でしょうか。
② 学習内容や教材を複数の方法で提示する「多様化」(多重知性理論のもうひとつの主張)の実践にはAIは不可欠でしょうか。


「個別化」と「多様化」についての議論は、実は先週取り上げたBloom の論文 "The 2 Sigma Problem”(1984)とも繋がっています。論文では「個別化」、ここでは特に個別指導の優位性が論じられています。さらに個別指導・対応ではなく、別の方法で同質の成果を上げる実践方法についても実験データがあらわれています。生成AIの意図的な活用のヒントがここにあると感じました。そして実際の導入には、先生方のmindset、習慣、そしてなによりも教育観に触れずに進めることは不可能だろうとも感じました。

先週はOECDのレポートの発表もありました。
​
"To unlock GenAI's full potential, education must move beyond generic chatbots towards purpose-built tools for education. The thoughtful integration of general-purpose GenAI tools will be essential for realising the full learning benefits of GenAI and developing students’ GenAI literacy for their future careers. The challenge for policymakers is to ensure that GenAI is a learning partner and not a learning shortcut.”OECD Digital Education Outlook 2026 (2026)

Bloomの論文

18/1/2026

 
教育心理学者のBenjamin Bloomが1984年に発表した論文を読んでいると、主題とは少し外れた記述がありました。

"After the sale of over one million copies of the Taxonomy of Educational Objectives - Cognitive Domain (1956) and over a quarter of a century of use of this domain in preservice and in-service teacher training, it is estimated that over 90% of test questions that U.S. public school students are now expected to answer deal with little more than information. Our instructional material, our classroom teaching methods, and our testing methods rarely rise above the lowest category of the Taxonomy - Knowledge." Benjamin Bloom (1984) The 2 Sigma Problem

「『教育目標の分類法-認知領域』(1956年)が100万部以上を売り上げ、この認知領域が教員養成課程や現職教員研修で四半世紀以上にわたり使用されてきた結果、現在米国の公立学校生徒が解答を求められる試験問題の90%以上が、知識以上のものを扱っていないと推定される。私たちの教材、教室での教授法、そして試験方法は、ほとんどの場合、教育目標分類法の最下位カテゴリーである「知識」を超えることが稀である。 」

Bloomの思いが伝わってきます。折しも、入学試験の時期になりました。

質問です。
① 大学入学共通テストに「英語」の試験があるのはなぜでしょうか。大学生が大学で学ぶ上で必要になる英語の能力とは何でしょうか。
② Bloomが示唆している「知識」を超える教授法や試験方法とはどのようなものでしょうか。もし、その主張の通り「知識」を超える試験を作成するとしたら、大学入学共通テストの構成や問題はどのように変化するでしょうか。

17日に実施された大学入学共通テストの「英語(リーディング)」に目を通してみました。6年以上の英語の学習を経てきた受験生のどのような英語力を測定しようとしているのか、主催者側の意図を理解する努力をしてみました。そして次の点が気になりました。

  • 第8問まであることから、速読が要求されていることは明らかですが、速く読んで理解する能力は日本の大学のレベルで必要な能力でしょうか。
  • 各読解文は工夫して作成されたものであることは伝わってきますが、状況設定、展開が稚拙で内容が浅薄に感じます。
  • 現在のような実施条件ではスピーキングやライティングはむずかしいですが、不可能ではないでしょう。いつまでリーディング中心の試験を続けるのでしょうか。
  • 受験生に一定の単語力があれば容易に解ける問題が繰り返される試験を終えて、受験生はどのような感覚や感想を持つのでしょうか。


Bloomが嘆いた「知識」を超えていない現状は、40年以上が過ぎた現在も大きな課題として私たちの目の前にあります。私たち一人ひとりが、そして総体として、深い思考と理解を育む学習内容と方法と評価を実践していかなければ何も変わらないことを再認識しました。

My top 4 books read in 2025

29/12/2025

 
この1年間どんな本を読みましたか。あるいは、聴きましたか。そしてどんな感動や学びがありましたか。私が出会った本の中から4冊をご紹介します。

Don Norman (2013) The Design Of Everyday Things 

Cliff Kuang with Robert Fabricant (2019) User Friendly によると、認知心理学を専門とする大学教授の著者は、1979年に起きたThree Mile Island原子力発電所のメルトダウン事故の調査委員会のメンバーに選ばれます。調査報告では、事故は作業員のミスではなく、コントロールルームの設計の欠陥と、設計者が人間の行動心理やパターンを理解していなかったことが原因だったと結論付けます。著者は90年代にAppleに加わりUser Experience (UX)という言葉を生み出し、"human-centred design"を追求します。製品だけでなく、建物、街、学校、システムなど良いDesignが必要なすべての領域に通用する視点を得ることができます。
"Human-centred design is a design philosophy. It means starting with a good understanding of people and the needs that the design is intended to meet. This understanding comes about primarily through observation, for people themselves are often unaware of their true needs, even unaware of the difficulties they are encountering." 


Jacinda Ardern (2025) A Different Kind of Power

女性として世界最年少の37歳でNew Zealandの首相になり、在任中に女児を出産してからは母親として一国の宰相として、数々の課題を乗り越えた異色の政治家の自叙伝。
"The things you thought would cripple you will in fact make you stronger, make you better. They will give you a different kind of power, and make you a leader that this world, with all its turmoil, might just need."


Brene Brown (2025) Strong Ground

著者による紹介文には「先の見えない深い不確実性と、威圧的態度や傲慢さ、さらには残酷な行動さえもが、公に認められたリーダーシップスタイルとして受けとめられているという度を超えた悲惨な状況の中、本書は実践的かつ戦術的な洞察について論じます。それは、他者とのつながりと自己規律、責任感に基づくリーダーシップを発揮しながら、集中力と成長の力を取り戻すために必要な思考様式とスキルセットを明確に示すものです。」とあります。この本は、私たちの意識の中にあるリーダーシップのあるべき姿の再構築を推し進めてくれます。
"Individually and collectively, we are all looking for strong ground right now. We need to push into the source of our strength and sturdiness so we can navigate the world."


Robert Cialdini (2021) Influence

行動心理学者の著者は、私たちが日常的に遭遇する様々な「影響」とそこから導き出される「判断」や「行動」を明解に分析します。人間の直感と行動の科学を理解すること、そして、その理解をもとに自身の判断や行動に道義的な責任を持つ必要性に気がつきます。
"With personally disquieting frequency, I have always found myself in possession of unwanted magazine subscriptions or tickets to the sanitation workers' ball. Probably this long-standing status as sucker accounts for my interest in the study of compliance: Just what are the factors that cause one person to say yes to another person? And which techniques most effectively use these factors to bring about such compliance? I wondered why it is that a request stated in a certain way will be rejected, while a request that asks for the same favor in a slightly different fashion will be successful. So in my role as an experimental social psychologist, I began to do research into the psychology of compliance."

2026年はどんな本に出会うでしょうか。みなさま方、希望にあふれる新年をお迎えください。

Roadmap

23/12/2025

 
先週OECDが主催するWebinar 'Education for human flourishing' がありました。FacilitatorのAndreas Schleicher氏が、カリキュラムをデザインしていく中で課題として認識していることは何かという問いかけをしました。出席者の一人、Singapore教育省の教育局長は① 教員のCompetencies:知識や技能だけでなく人間性、使命感、思考力、表現力などの資質や能力 ② 教員のSkill building、受容力 ③ すでに飽和状態のカリキュラムに量的・時間的な余裕を生むこと ④ 生徒、保護者、教員のMindset の4点を挙げました。

1. カリキュラムは固定のものではなく、より良い内容にするためにデザインをしていくという意識を教員が持つことの必要性と専門性を強調していること。
2. Competencies、Skill building、Mindsetは学校組織と運営の改革、学習内容・方法・評価の改革、Digital Transformation (DX)の推進を実行する際に、持続性のある着実な成果をあげるために重要な要素であること。さらに、それらのmacroな視点に立って学校リーダーに包括的な研修やサポートの機会を提供することが必要であることも示唆している。という点で現実的で先進的な考え方です。

一方、「カリキュラムマネジメント」について文科省の解説書には「大切にすること」として、「各学校のカリキュラム・マネジメントを充実させることは、新たな取組を追加することではありません。学校の様々な業務の効率化を図ることにより、カリキュラム・マネジメントの充実につなげていきます。全教職員が持ち味を活かしながら力を合わせ、わが校の教育課程を全教職員が語れる学校づくりを通して、「社会に開かれた教育課程」の実現を目指します。」文部科学省 (2017)とあります。教育行政のリーダーの発言と文科省の刊行物にある記述を単純に比較することはできませんが、大きな隔たりがあります。


質問です。
① 学校の文化として、個人の実践として、カリキュラムをデザインする習慣はどのように浸透しているでしょうか。内容や成果はどのように共有されているでしょうか。
② 生徒、保護者、教員が共通のMindsetを持つことは可能でしょうか。どのような手順と方法で共通の意識や価値観を持つことができるようになるでしょうか。


異なる興味・関心、思想・信条、立場・利害を持つ人々が同じMindsetを持つためには、対話をもとにした心理的安全性を確保することが最優先されます。しかも、そのような土壌づくり、準備が不可欠です。前回問題提起をしたDXの推進に際しても、先の教育局長の発言と根本的な部分で一致している論説がありました。


  • Recognise the emotional side of digital transformation
  • Align around a customer-centric narrative
  • Build a data-informed culture by upskilling talent 
  • Design for inclusive and agile problem-solving
Linda Hill(2022) Digital Transformation: A New Roadmap for Success, Harvard Business School 

  • DXに伴う感情的な側面を認識する
  • 利用者中心の考え方・意見に合わせる
  • 人材のスキルアップによってデータに基づいて物事を決定する文化をつくる
  • 包括的で敏捷な問題解決のための設計を行う

このような全体を俯瞰した周到な準備と過程を加えたRoadmapを通して、DXや学校改革が成功するのでしょう。自分のこれまでの取り組みには欠けていた要素であったと振り返っています。

Paradoxical Thinking

15/12/2025

 
先週取り上げたNew York Timesの記事を引用したAdam Grantの投稿に対して、語気の強い反論がありました。その要旨は、
“1. Computers are about creative opportunities, not consumption and recall 
2. Computers are a tool that is ubiquitous in the real world (so why not in the classroom) 
3. Computers are not meant to support an old system, they are meant to change it.” A. Juliani (2025) Yes, I’m Defending The Use Of Computers For Learning

私は3の指摘には共感しますが、1と2については慎重な立場です。前回私が述べた根拠は、ICT機器が学習活動、コミュニケーション、学校運営などを改革するために活用されていないという現状に対する課題意識です。使うことが目的ではなく、変えること、より良いものを提供することが目的なのではないかという視点です。学習活動にICT機器を使うか使わないかという議論ではありません。

質問です。
① どちらを取るかという二者択一の議論ではなく、相反する考えや方法を統合するParadoxical Thinking 逆説的思考を用いるとどのような利点があるでしょうか。
② 教育のDX (Digital Transformation) を進めていく過程で、予算案だけでなく、利用者としての教員の総括的な支援や組織の再編も含めたRoadmapが各学校にあるでしょうか。

私たちの生活にはParadox 矛盾や逆説にあふれています。教室で起こり得る状況でみてみましょう。理想:各自がICT機器を活用して発展的で探究的に学ぶ活動を提供したい。それが深い学びを生む。危惧:教材開発などの準備にかける時間がない、方法がわからない、試してみる自信がない、カリキュラムの積み残しが出てしまう、他の教員の賛同が得られない、確実に一定数の生徒が関係のないサイトやゲームにいくなど集中度が欠けたものになってしまう。結論:ICT機器は使わず、教科書・副教材から解答を探させてワークシートに書かせる作業にする。

Paradoxical Thinkingを用いることで、目の前の複雑な問題の解決が可能になる、創造力や論理的思考能力が向上するという利点があげられています。

"Your own job may already contain many contradictory goals that could inspire paradoxical cognition. In the past, you might have assumed that you need to sacrifice one for the other – but if you want to cultivate the paradox mindset, you might spend a bit more time considering the ways you can pursue them both, simultaneously. Rather than seeing the potential conflicts as something to avoid, you can begin to view the competing demands as an opportunity for growth and a source of motivation. (And if there aren’t any external pressures, you could create your own – asking, for instance, how you could increase the efficiency and accuracy of your performance on a particular task, if only for an exercise in paradoxical thinking.) There may be no immediate solution, but the very act of thinking about the possibility of reconciling those issues could still lubricate your mind for greater innovation elsewhere." Loizos Heracleous and David Robson (2020) BBC, Why the 'paradox mindset' is the key to success

「即座の解決策はないかもしれませんが、それらの問題を統合的に解決する可能性について考えるという行為そのものが、他の分野でのより大きな革新に向けてあなたの思考を潤滑にするかもしれません。」

先ほどの例で考えてみると、「準備に十分な時間がないのはなぜか」「自分に自信がないのはなぜか」「共感を得られないのはなぜか」「学習活動に集中できない生徒がいるのはなぜか」という問いかけから始まることで、妥協することなく目ざしたい方向へ進むことができるかも知れません。

The pen is mightier than the keyboard

8/12/2025

 
"It's time to remove laptops from classrooms. 24 experiments: Students learn more and get better grades after taking notes by hand than typing. It's not just because they"re less distracted—writing enables deeper processing and more images. The pen is mightier than the keyboard.” Jean Twenge (2025) The Screen That Ate Your Child"s Education, New York Times

「教室からノートパソコンを撤去する時が来ました。24の実証実験の結果:手書きでノートを取った生徒は、タイピングよりも多くのことを学び、成績も向上する。単に気が散りにくいからではありません - 書く行為はより深い情報の処理とイメージの定着を促します。ペンはキーボードよりも強いのです。」

組織心理学者のAdam Grantからの先週のeNewsletterにあった引用です。

多くの研究者や教育関係者によって「手書きノート」の有効性は指摘されています。けれども、この記事が示唆する学習活動は知識理解を第一義とする講義型の授業なのではないかと気がつきます。さらに、教師と子どもたちとの関係性や教室の文化・習慣、学習内容や方法が子どもたちの興味や関心をどう増幅しているかという広義の「学習の科学」を飛び越えて結論づけられるのだろうかという疑問も起こります。

一方で、日本やオーストラリアの学校の実情はどうでしょうか。私の限られた範囲での観察では、子どもたちはそれぞれデバイスを持って教室に来ますが、実際の学習活動は3通りのパターンがあります。①教科書+副教材とノートがセットになった講義型 ②教科担任が印刷したワークシートをもとにする作業型 ③各自のデバイスに配信されたGoogle Docsにある課題をこなす作業型。基本的に②と③の作業の質は同じです。
 
質問です。
① 学校でのひとり1台のICT機器環境は、どの国でも学校教育に関わるすべてのステークホルダーの莫大な投資と経済的負担をもとに実現されました。その時に共有された当初の目的、Visionは何だったのでしょうか。
② ひとり1台のICT機器環境は学校での学びの質を本質的に改革しているでしょうか。ICTを活用した主体的で発展的な学習活動や、学習内容を個別化し深い理解と学びを提供することを実現しているでしょうか。一人ひとりの学習の状況や理解の深度をデータとして拾い上げているでしょうか。

21世紀が始まった頃から、国内外で教育に関わる様々なレベルの人々が共有していたICTを活用したBig Pictureがありました。たとえば、学習の個別化や多様化、学習者自身が自分の学びをデザインするAgency、広い能力観に基づく多様な評価方法、地域社会と有機的につながった学習活動、次の時代に必要な資質を身につけたリーダーを育てること。それらは言葉を換えれば、学校教育の根幹に関わるParadigm shiftの具体的な実践例でした。

「後戻り現象」は、そのようなParadigm shiftができなかった、しようとしなかったという現実的な課題の表出のように思います。さらに、教育に関わる人々にとって、教育の様々な領域でUnlearn, Relearnすることのむずかしさが明らかになったとも言えると思います。

さて、オーストラリアでは今週から16歳以下の子どものSNSなどの利用禁止が始まります。状況を注目したいと思います。

Ownershipについて

2/11/2025

 
勤務校で毎年楽しみにしている作品展がありました。7年生から12年生までがこの学年で取り組んだ多種多様な創作活動の成果が並びます。そして来場者へのもてなしも創作活動のひとつです。このイベントは、まさにCreativityの祭典です。(3分30秒のダイジェスト版はこちらです。これらの他にdigital media系やgameなどのprograming系の作品もありました。)

一つひとつの作品を見入ると、制作した子どもたちの声や表情が伝わってくるように感じます。制作の過程で工夫したことや期待通りに進まなかったこともあっただろうと想像しながらそれらの作品を鑑賞していると、どれもが堂々と胸を張って存在し、明らかにそこには見た目の完成度の良し悪しや他者との比較といった尺度は制作者にはないように感じられます。全体を鑑賞し終えてから、いわゆる普通教科の学習活動と本質的に何が異なるのか、あるいは同じなのか考えました。

質問です。
① 子どもたちの学習活動への集中度、習熟度、達成感、Ownershipが創作活動を主とする教科と知識や理解、思考力を主とする普通教科に違いがあるでしょうか。
② 教科を問わず、Creativityに必要な要素とその過程は何でしょうか。

子どもたちが創作活動に向かう時、まず成果物や完成品を見ること・思い浮かべることから始まります。この時点で子どもたちは学習活動の目的を明確に認識・意識します。次に先生からどのようなステップで進めば良いのか説明を受けるでしょう。その時に自分は何ができて、何ができないかを認識するでしょう。そしてどのようなサポートがいつ必要なのか自身で認識します。制作作業に入る前にはどのように進めば良いのか自分なりの計画を立てるでしょう。実際に制作が始まると、自分が活動しやすい進度で進めていきます。毎時間の終わりには進捗状況を振り返り、次にするべきことを明確に意識します。こうして作品が完成に近づいていきます。

子どもたちが制作の過程で自分は何ができないか、むずかしいか、理解できないかを認識した時にどのようなサポートを得ることができるかということが重要なポイントになります。これが心理学者のVygotskyが提唱したThe zone of proximal development (ZPD)です。自分ができることとできないことの間にZPDが存在し、教師、友だち、家族、資料などからのサポートを得て、できなかったことができるようになっていくという過程です。

ZPDによって子どもたちは一つひとつハードルを越えて思い描いている完成に近づいていきます。この過程があることで自分の学習や制作に向かい合いより強いOwnershipを持つことにつながっていきます。

こうして見てくると、創作活動が主となる教科だけでなく、普通教科でもこのサイクルは当てはまりそうです。具体的に考察してみると、学習単元の終わりに自分は何ができるようになるのか、何が理解できるようになるのかという学習の出口が普通教科では若干不明確の場合があるでしょう。さらに学習活動がどのように進んでいくかは、たいていの場合教師主導型の学習活動のために明確ではありません。そして学習の進度は自分のペースでとはならず、全体と合わせなければなりません。

これらの違いがあるものの、さほど大きな問題ではなさそうです。普通教科と芸術的教科とは学習内容も方法も根本的に異なるという先入観を捨てること。表現を換えれば、学習活動の日常の習慣を少し修正することで、創作活動が主となる教科のように普通教科も子どもたちの学習へのOwnershipを確保して、集中度や達成感を味わうことのできる学習活動が可能なのではないでしょうか。たとえば、学習活動の中にドリル的な反復練習ではなく、意味のある創作的な活動を加えることも一案です。
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    萩原   伸郎

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