小学校の教員になった最初の日、木造校舎の教室で学年主任の先生が言われたことは「いつも立って教えること、それができなくなったら教師をやめる時だと自覚すること」でした。
時間があるときには、尊敬している同僚の先生の教室の隅に座って子どもたちとのやりとりを観察します。宗教教育の第一人者のこの先生は50分間隅々を動き回って子どもたちの思考を揺さぶり続け、座ることは決してありません。74歳の彼は現在も、そして私の知る限り座って教えていたことはありません。 50年以上も第一線で重厚な教育実践を続ける彼には他の人にはない、あるいはやらない流儀があります。
質問です。
この先生には常に目標があります。その目標は思い描く未来の自分を現実のものにしています。 Start acting like your future self, rather than your former self. Embrace uncertainty and change. Embrace learning and failure. Never be defined by "now." Engage in deliberate practice so that over time, you'll grow into your own ever-evolving story. Take action, and invest in building your future identity. Benjamin Hardy (2020) Harvard Business Review 私は、成績表の所見に何をどう書くかということから使用済みの紙を束ねて雑記簿にするということまで、この先生からたくさんのことを盗みました。そのような行動は現在の私の個性をつくり出しているように感じます。 Your behaviour signals back to you the type of person you think you are, solidifying your identity and eventually becoming your personality. Benjamin Hardy (2020) Harvard Business Review 宗教という最も保守的な教科で最も革新的で斬新な学習内容や方法を生み出しているこの先生をいつも視野に入れています。
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今週木曜日の午後、昨年に続きDeep Learning Unconferenceがありました。10年生、11年生が中心となって企画運営し大盛況でした。
自分たちが夢中になっていること、得意なこと、関心のある課題などについてそれぞれが自由に発表し来場者とかかわります。Animation制作、高度なprogramming、Rubik's Cube、手品などが並ぶ中に異色を放つworkshopがありました。 3人の10年生が提供したものは Awkward Conversations (気まずい会話)というゲームで、参加する前に相手の思想、信条、宗教、帰属文化を尊重すること、言動で相手を傷つけないこと、などの誓約書に署名してから一対一で向き合って座り、無作為に選んだ話題について話し合います。用意した話題は人種差別、LGBTQ、白人至上主義、心身の障がい、Body image、宗教、堕胎、男女格差などに渡ります。たとえば、
質問です。
今年の始めに9年生にPodcastを制作してもらう課題を思いつき早速試してみると、多くの子どもたちが社会問題や生活の中から課題を見つけ出してきて意見や考えを交わし合うという活動が見られました。個人が文章で思考や感情を表現する活動は一般的ですが、複数の人と向かい合って話し合う機会を用意してその内容を残すことも大切だということを認識しました。 ところで、Uncenferenceで双方の子どもたちが生き生きとかかわる様子を見ながら、教科の学習でも教える立場になりたい子どもたちが出店し、教わる立場の子どもたちが好きな単元のところに行って学習するということができたら楽しいだろうねと同僚と共鳴し合いました。 学習の形態や方法は無限の可能性と選択肢があります。 8月下旬に、文化祭のクラス企画に「会話の苦手意識を自分の強みへ変える」という課題を選んだ東京の中学生とZoomで話し合いました。夏休みの最終週に学校に来て準備をするという責任感や自主性、面識のない人とonlineで話し合うという発想と実行力をみただけでも「苦手意識」という表現とは正反対の自信に満ちた15歳だと感心しました。
会話をする際に焦ってしまう、気まずい空気になってしまう、初対面の人に話しかけるのに抵抗を感じる、という自分たちの弱さがクラス内の調査から明らかになったのだそうです。 今週Unicefの報告書 Worlds of influence を読みました。日本の15歳の子どもたちが現在の生活に十分に満足している度合いは62%、気軽に友だちをつくることができると答えた割合は69%とどちらもOECD加盟国との比較では下から2番目の低さでした。 質問です。
子どもたちの苦手意識とUnicefの報告書にある生活の満足度の低さには相関関係があるような気がします。子どもたちのMindsetや学校の文化、社会や家庭の価値観と慣習が15歳のMental well-being とSocial skillsに負の力が働いているように感じます。子どもたちの苦手意識や満足度は子どもたち自身の問題というよりは、社会の健全性を映し出す鏡と判断した方が良いのではないでしょうか。 さて、会話が得意か苦手かという命題は、少々深い考察が必要になります。昨年9月末に訪問した中学校の教室で国語の教科書に目を通しました。表紙をめくると加藤周一さんの一文がありました。「この言葉には、精密な考えを展開し、微妙な感情を表現できる限りない可能性がある。」 私たちは日本語の使い手としてその「可能性」を感じとって十分に活用しているかどうか、疑問に思いました。 Innovationの定義と方法について考える時、基準にしていることがあります。
Organisations usually talk more about innovation than about creativity and there is a distinction between the two. In practice, a culture of innovation depends on cultivating three processes, each of which is related to the others. The first is imagination: the ability to bring to mind events and ideas that are not present to our senses. The second is creativity: the process of having original ideas that have value. The third is innovation: the process of putting original ideas into practice. Ken Robinson (2011) Out of Our Minds 私たちが意識していない事柄や考えを導き出す能力、価値のある独自の考えを持つ過程、そしてその独自の考えを具現化する過程、「想像、創造、革新」という連続的な思考と行動の発展過程を通してこれまでにない新しい物事を生み出すことができるという考えです。 質問です。
Ken Robinson の論述では"imagination"は"ability”能力という言葉を使っていますが、"creativity”と"innovation”は "process”過程と説明しています。想像は身につける能力であるということ、一方の創造や革新を可能にするものは能力というよりはむしろ過程であるという考え方が明確になっています。 この考え方は彼が英政府の諮問委員会の座長としてまとめた提言の中にもあらわれています。 On this basis we will develop our view that creativity is possible in all areas of human activity and that everyone has creative capacities. All Our Future: Creativity, Culture and Education (1999) 見えないものを見る、あるいは感じとる感性を研ぎ澄ます努力をすることで想像力はさらに豊かになるということ。そして私たち一人ひとりに特有の知性が備わっていること。能力や知性の評価は多元的であるべきだということ。現実の教育や学校はReformではなくInnovationが必要であるという主張。まさに21世紀のRenaissanceだと感じていました。 Sir Ken Robinson の次の出版物やTED Talkを楽しみにしていましたが、残念です。 |
Author萩原 伸郎 Archives
8月 2024
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