Australiaの新学年がもうすぐ始まります。はじめてPrimary schoolやHigh schoolに入学する子どもたちや保護者の喜びと期待、不安と緊張が最も大きくなる頃でしょう。ひとつ上の学年に進学する子どもたちも同じような感情を持って初登校までの日を数えているかもしれません。
Dyslexia の子どもを持つお母さんから長めのmailが日曜日の午後に届きました。新学期からの教科の担任に一言伝えておきたいと思われたのでしょう。特徴的な症状の解説や対処法の説明の中からお母さんの気持ちが伝わってきましたが、同時に、学校という場所は未だに集団をひとまとめにして、一人ひとりの違いに対応する場所にはなっていないのかもしれないということを感じました。 質問です。
植物を種や苗から育てるとき、人間は誰に教えられたわけでもなく生まれたての生命に丁寧に優しく向かい合います。そういう本能的な感性の働きを学校でも発揮し続けたいと思います。 さて、学校には1年を単位に明確な区切りがあり、そこにかかわる人々はみな新しいページを開くような感動を味わうことができる場所だと思います。毎年新しい出発点に新鮮な心持ちで立つことができる教職に就いている幸せを感じます。 幸せを感じているだけではありません。気持ちを引き締めてこの1年間取り組みたい目標も考えています。そんな時John Hattieの言葉が頭に浮かんできます。 “…the greatest effects on student learning occur when teachers become learners of their own teaching, and when students become their own teachers. When students become their own teachers, they exhibit the self-regulatory attributes that seem most desirable for learners (self-monitoring, self-evaluation, self-assessment, self-teaching). Thus, it is visible teaching and learning by teachers and students that makes the difference.” 一人ひとりの子どもたちの知的好奇心や創造力、批判的思考力を存分に引き出して深い学習を導きたいと思います。そして子どもたちが充実した時間を過ごしたと実感し各自が納得できるような学習成果と成就感を手に持たせてあげたいと思います。
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学校での学習活動の後には学習の成果をはかる評価が伴うのが一般的です。学ぶことが第一義で評価が従であるはずですが、実際の教室をのぞくと、主従関係は反転し、評価のために教科書の内容を教え込んでいる現状を目の当たりにします。
学習の成果の何をどのような方法で評価しているのかを調べることも今回のDenmarkの学校訪問のねらいでした。 質問です。
Innovation という教科には個別の知識ではなく社会科学分野の知識をもとにした分析力や思考力、企画力、発表力など総合的な能力をはかる試験があることがわかりました。各グループが担任教師から提示された事例を分析し48時間以内に解決策を発表するというCase Studyです。 社会科系、理科系の教科では担任教師から提示された資料を各自90分間分析し、自らが質問を導き出し、30分でその質問に口頭で答えるという方法をとります。その発表は二人の教師(一人は教科の担任、もう一人は他校の教師)が採点します。 採点について興味深かったことは、美術のような芸術教科では制作した作品の一作ごとを評価せず、作品や練習、学習ノートなどをまとめたportfolioを総合的に評価していること。記述・論述が主要な試験となる教科では指導した教師ではなく、他校の二人の教師が採点するということです。 9年生の最後には全員が受ける到達度試験が7教科にわたってありますが、ここでも筆記と口頭、あるいは口頭のみの方法で能力や技能をはかります。結果は点数化されず、さらに合否の判定もありません。教育省のwebsiteには次のような解説がありました。”Each examination subject is assessed on its own merit; results cannot be summed up to give an average mark, in the same way, there are no pass or fail criteria.” Denmarkでは教育評価の要素である比較と説明のうち、「説明」に徹していることがよくわかります。教師たちの時間と専門性を最大限活用して、試験を個別に実施するという生産性の低い方法をあえて選択している事実。質の良いものを追求し提供する、この国の教育に対する価値観を別の視点からも認識することができました。 2年前にDenmark各地の中等教育学校を訪問しました。その際に目にした斬新な校舎の設計や構造、家具、校内にあふれる本物の芸術作品群に驚き、日本にもAustraliaにもない教科に驚きました。
その時に案内をしてくれた先生に様々な質問をしましたが、帰国してからも次々に疑問が浮かびあがってきました。そこで再び訪れて、じっくりと学習活動を見せてもらうことにしました。 その疑問のひとつはどの教室にもあるLEGOをどう活用するのかということでした。とうにその種の遊びを卒業した高校生がどのように向き合うのか、価値のある活動になるのだろうか。2年生のBusiness Caseの教室でその例を見ることができました。3、4人で構成するグループで企業が抱える問題点の分析をして改善点を探り当てるという大きな課題解決学習を始める前の導入として、各自のExpectations (目標、意気込み、期待) をLEGOで表現するというものです。 質問です。
先生が簡単に説明すると短い歓声があがりました。LEGOを使うのが好きなようです。青い受け皿に使いたいLEGOの部品を集めると作業が始まりました。いろいろ考えながら、まわりの友だちとかかわりながらそれぞれが自分のExpectationsを表現しました。 HarvardのProject Zero teamが提唱するMaking Thinking Visibleを数年前から自分なりに実践してきましたが、具体物を使うことは試したことがありませんでした。頭の中のぼんやりした考え、抽象的な思考や感情、感覚を具体的な形にするという活動の意味を深く理解するべきでした。何よりもその楽しさに気づくべきでした。"if we are going to make thinking visible in our classrooms, then the first step will be for us as teachers to make the various forms, dimensions, and processes of thinking visible to ourselves.” (Making Thinking Visible) グループ内で各自が表現したものを発表し終えると、Google DocにグループとしてのExpectations に集約し、それに一人ずつ署名をして先生に提出しました。今後の進捗をその先生に知らせてもらうことにしました。 この教科の担当の先生は年間20社程の企業と協働して実際の問題点を生徒たちに提供しています。本物の課題、生きた学習 (Authentic learning) の実例だと思いました。 |
Author萩原 伸郎 Archives
10月 2024
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