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Ideas

My top 4 books read in 2025

29/12/2025

 
この1年間どんな本を読みましたか。あるいは、聴きましたか。そしてどんな感動や学びがありましたか。私が出会った本の中から4冊をご紹介します。

Don Norman (2013) The Design Of Everyday Things 

Cliff Kuang with Robert Fabricant (2019) User Friendly によると、認知心理学を専門とする大学教授の著者は、1979年に起きたThree Mile Island原子力発電所のメルトダウン事故の調査委員会のメンバーに選ばれます。調査報告では、事故は作業員のミスではなく、コントロールルームの設計の欠陥と、設計者が人間の行動心理やパターンを理解していなかったことが原因だったと結論付けます。著者は90年代にAppleに加わりUser Experience (UX)という言葉を生み出し、"human-centred design"を追求します。製品だけでなく、建物、街、学校、システムなど良いDesignが必要なすべての領域に通用する視点を得ることができます。
"Human-centred design is a design philosophy. It means starting with a good understanding of people and the needs that the design is intended to meet. This understanding comes about primarily through observation, for people themselves are often unaware of their true needs, even unaware of the difficulties they are encountering." 


Jacinda Ardern (2025) A Different Kind of Power

女性として世界最年少の37歳でNew Zealandの首相になり、在任中に女児を出産してからは母親として一国の宰相として、数々の課題を乗り越えた異色の政治家の自叙伝。
"The things you thought would cripple you will in fact make you stronger, make you better. They will give you a different kind of power, and make you a leader that this world, with all its turmoil, might just need."


Brene Brown (2025) Strong Ground

著者による紹介文には「先の見えない深い不確実性と、威圧的態度や傲慢さ、さらには残酷な行動さえもが、公に認められたリーダーシップスタイルとして受けとめられているという度を超えた悲惨な状況の中、本書は実践的かつ戦術的な洞察について論じます。それは、他者とのつながりと自己規律、責任感に基づくリーダーシップを発揮しながら、集中力と成長の力を取り戻すために必要な思考様式とスキルセットを明確に示すものです。」とあります。この本は、私たちの意識の中にあるリーダーシップのあるべき姿の再構築を推し進めてくれます。
"Individually and collectively, we are all looking for strong ground right now. We need to push into the source of our strength and sturdiness so we can navigate the world."


Robert Cialdini (2021) Influence

行動心理学者の著者は、私たちが日常的に遭遇する様々な「影響」とそこから導き出される「判断」や「行動」を明解に分析します。人間の直感と行動の科学を理解すること、そして、その理解をもとに自身の判断や行動に道義的な責任を持つ必要性に気がつきます。
"With personally disquieting frequency, I have always found myself in possession of unwanted magazine subscriptions or tickets to the sanitation workers' ball. Probably this long-standing status as sucker accounts for my interest in the study of compliance: Just what are the factors that cause one person to say yes to another person? And which techniques most effectively use these factors to bring about such compliance? I wondered why it is that a request stated in a certain way will be rejected, while a request that asks for the same favor in a slightly different fashion will be successful. So in my role as an experimental social psychologist, I began to do research into the psychology of compliance."

2026年はどんな本に出会うでしょうか。みなさま方、希望にあふれる新年をお迎えください。

Roadmap

23/12/2025

 
先週OECDが主催するWebinar 'Education for human flourishing' がありました。FacilitatorのAndreas Schleicher氏が、カリキュラムをデザインしていく中で課題として認識していることは何かという問いかけをしました。出席者の一人、Singapore教育省の教育局長は① 教員のCompetencies:知識や技能だけでなく人間性、使命感、思考力、表現力などの資質や能力 ② 教員のSkill building、受容力 ③ すでに飽和状態のカリキュラムに量的・時間的な余裕を生むこと ④ 生徒、保護者、教員のMindset の4点を挙げました。

1. カリキュラムは固定のものではなく、より良い内容にするためにデザインをしていくという意識を教員が持つことの必要性と専門性を強調していること。
2. Competencies、Skill building、Mindsetは学校組織と運営の改革、学習内容・方法・評価の改革、Digital Transformation (DX)の推進を実行する際に、持続性のある着実な成果をあげるために重要な要素であること。さらに、それらのmacroな視点に立って学校リーダーに包括的な研修やサポートの機会を提供することが必要であることも示唆している。という点で現実的で先進的な考え方です。

一方、「カリキュラムマネジメント」について文科省の解説書には「大切にすること」として、「各学校のカリキュラム・マネジメントを充実させることは、新たな取組を追加することではありません。学校の様々な業務の効率化を図ることにより、カリキュラム・マネジメントの充実につなげていきます。全教職員が持ち味を活かしながら力を合わせ、わが校の教育課程を全教職員が語れる学校づくりを通して、「社会に開かれた教育課程」の実現を目指します。」文部科学省 (2017)とあります。教育行政のリーダーの発言と文科省の刊行物にある記述を単純に比較することはできませんが、大きな隔たりがあります。


質問です。
① 学校の文化として、個人の実践として、カリキュラムをデザインする習慣はどのように浸透しているでしょうか。内容や成果はどのように共有されているでしょうか。
② 生徒、保護者、教員が共通のMindsetを持つことは可能でしょうか。どのような手順と方法で共通の意識や価値観を持つことができるようになるでしょうか。


異なる興味・関心、思想・信条、立場・利害を持つ人々が同じMindsetを持つためには、対話をもとにした心理的安全性を確保することが最優先されます。しかも、そのような土壌づくり、準備が不可欠です。前回問題提起をしたDXの推進に際しても、先の教育局長の発言と根本的な部分で一致している論説がありました。


  • Recognise the emotional side of digital transformation
  • Align around a customer-centric narrative
  • Build a data-informed culture by upskilling talent 
  • Design for inclusive and agile problem-solving
Linda Hill(2022) Digital Transformation: A New Roadmap for Success, Harvard Business School 

  • DXに伴う感情的な側面を認識する
  • 利用者中心の考え方・意見に合わせる
  • 人材のスキルアップによってデータに基づいて物事を決定する文化をつくる
  • 包括的で敏捷な問題解決のための設計を行う

このような全体を俯瞰した周到な準備と過程を加えたRoadmapを通して、DXや学校改革が成功するのでしょう。自分のこれまでの取り組みには欠けていた要素であったと振り返っています。

Paradoxical Thinking

15/12/2025

 
先週取り上げたNew York Timesの記事を引用したAdam Grantの投稿に対して、語気の強い反論がありました。その要旨は、
“1. Computers are about creative opportunities, not consumption and recall 
2. Computers are a tool that is ubiquitous in the real world (so why not in the classroom) 
3. Computers are not meant to support an old system, they are meant to change it.” A. Juliani (2025) Yes, I’m Defending The Use Of Computers For Learning

私は3の指摘には共感しますが、1と2については慎重な立場です。前回私が述べた根拠は、ICT機器が学習活動、コミュニケーション、学校運営などを改革するために活用されていないという現状に対する課題意識です。使うことが目的ではなく、変えること、より良いものを提供することが目的なのではないかという視点です。学習活動にICT機器を使うか使わないかという議論ではありません。

質問です。
① どちらを取るかという二者択一の議論ではなく、相反する考えや方法を統合するParadoxical Thinking 逆説的思考を用いるとどのような利点があるでしょうか。
② 教育のDX (Digital Transformation) を進めていく過程で、予算案だけでなく、利用者としての教員の総括的な支援や組織の再編も含めたRoadmapが各学校にあるでしょうか。

私たちの生活にはParadox 矛盾や逆説にあふれています。教室で起こり得る状況でみてみましょう。理想:各自がICT機器を活用して発展的で探究的に学ぶ活動を提供したい。それが深い学びを生む。危惧:教材開発などの準備にかける時間がない、方法がわからない、試してみる自信がない、カリキュラムの積み残しが出てしまう、他の教員の賛同が得られない、確実に一定数の生徒が関係のないサイトやゲームにいくなど集中度が欠けたものになってしまう。結論:ICT機器は使わず、教科書・副教材から解答を探させてワークシートに書かせる作業にする。

Paradoxical Thinkingを用いることで、目の前の複雑な問題の解決が可能になる、創造力や論理的思考能力が向上するという利点があげられています。

"Your own job may already contain many contradictory goals that could inspire paradoxical cognition. In the past, you might have assumed that you need to sacrifice one for the other – but if you want to cultivate the paradox mindset, you might spend a bit more time considering the ways you can pursue them both, simultaneously. Rather than seeing the potential conflicts as something to avoid, you can begin to view the competing demands as an opportunity for growth and a source of motivation. (And if there aren’t any external pressures, you could create your own – asking, for instance, how you could increase the efficiency and accuracy of your performance on a particular task, if only for an exercise in paradoxical thinking.) There may be no immediate solution, but the very act of thinking about the possibility of reconciling those issues could still lubricate your mind for greater innovation elsewhere." Loizos Heracleous and David Robson (2020) BBC, Why the 'paradox mindset' is the key to success

「即座の解決策はないかもしれませんが、それらの問題を統合的に解決する可能性について考えるという行為そのものが、他の分野でのより大きな革新に向けてあなたの思考を潤滑にするかもしれません。」

先ほどの例で考えてみると、「準備に十分な時間がないのはなぜか」「自分に自信がないのはなぜか」「共感を得られないのはなぜか」「学習活動に集中できない生徒がいるのはなぜか」という問いかけから始まることで、妥協することなく目ざしたい方向へ進むことができるかも知れません。

The pen is mightier than the keyboard

8/12/2025

 
"It's time to remove laptops from classrooms. 24 experiments: Students learn more and get better grades after taking notes by hand than typing. It's not just because they"re less distracted—writing enables deeper processing and more images. The pen is mightier than the keyboard.” Jean Twenge (2025) The Screen That Ate Your Child"s Education, New York Times

「教室からノートパソコンを撤去する時が来ました。24の実証実験の結果:手書きでノートを取った生徒は、タイピングよりも多くのことを学び、成績も向上する。単に気が散りにくいからではありません - 書く行為はより深い情報の処理とイメージの定着を促します。ペンはキーボードよりも強いのです。」

組織心理学者のAdam Grantからの先週のeNewsletterにあった引用です。

多くの研究者や教育関係者によって「手書きノート」の有効性は指摘されています。けれども、この記事が示唆する学習活動は知識理解を第一義とする講義型の授業なのではないかと気がつきます。さらに、教師と子どもたちとの関係性や教室の文化・習慣、学習内容や方法が子どもたちの興味や関心をどう増幅しているかという広義の「学習の科学」を飛び越えて結論づけられるのだろうかという疑問も起こります。

一方で、日本やオーストラリアの学校の実情はどうでしょうか。私の限られた範囲での観察では、子どもたちはそれぞれデバイスを持って教室に来ますが、実際の学習活動は3通りのパターンがあります。①教科書+副教材とノートがセットになった講義型 ②教科担任が印刷したワークシートをもとにする作業型 ③各自のデバイスに配信されたGoogle Docsにある課題をこなす作業型。基本的に②と③の作業の質は同じです。
 
質問です。
① 学校でのひとり1台のICT機器環境は、どの国でも学校教育に関わるすべてのステークホルダーの莫大な投資と経済的負担をもとに実現されました。その時に共有された当初の目的、Visionは何だったのでしょうか。
② ひとり1台のICT機器環境は学校での学びの質を本質的に改革しているでしょうか。ICTを活用した主体的で発展的な学習活動や、学習内容を個別化し深い理解と学びを提供することを実現しているでしょうか。一人ひとりの学習の状況や理解の深度をデータとして拾い上げているでしょうか。

21世紀が始まった頃から、国内外で教育に関わる様々なレベルの人々が共有していたICTを活用したBig Pictureがありました。たとえば、学習の個別化や多様化、学習者自身が自分の学びをデザインするAgency、広い能力観に基づく多様な評価方法、地域社会と有機的につながった学習活動、次の時代に必要な資質を身につけたリーダーを育てること。それらは言葉を換えれば、学校教育の根幹に関わるParadigm shiftの具体的な実践例でした。

「後戻り現象」は、そのようなParadigm shiftができなかった、しようとしなかったという現実的な課題の表出のように思います。さらに、教育に関わる人々にとって、教育の様々な領域でUnlearn, Relearnすることのむずかしさが明らかになったとも言えると思います。

さて、オーストラリアでは今週から16歳以下の子どものSNSなどの利用禁止が始まります。状況を注目したいと思います。

    Author

    萩原   伸郎

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